(羽田鷹志編 前編) ・真冬の白い空を仰いで立ちあがれば、青春という災難がもたらす厄介な情動に身体の芯が疼いていた。  そんな獣たらしく凝り固まってしまった男の一部分を、僕は激しく忌み、疎んじ、蔑んでいる。汚らわしいとさえ思っている。  最低だ。最低の屑だ。  こんなにも清らかな想いさえ、しばしば下卑た本能で濾してしまう男なんて生き物は、さっさといなくなってしまえばいいんだ。  それはそれとして今日は帰ったら自慰をしようと思った。  激白、童貞のすべて。 ・<右曲がりのハイン> <桃色吐息のルイス> <花粉症のベルダ> <ダダダダダリウス> <わりと強いウーリ> <脇汗が凄いガトー> <オレの好きなレオ> <天国に一番近い島> <恋人も濡れる街角> <ホーク四大天王5> ・とりあえず音楽とか雑音じゃない肉声を耳に入れて、それに対して生の言葉を返すっていう、そういう行為をたまにしたくなるとき、ない? ・羽田君、得意な話題だと急に滑舌よくなるんだね ・羽田君、得意な話題だと急に積極的になるんだね (千歳鷲介編 前編) ・「さすが!さすがシャンプーをするとき目を開けている男は言うことが違う!」 ・知ってます?ピエロって指差されることには慣れてるけど、睨まれることにはめっぽう弱いんですよ。 ・「男はいくつになろうとも、女体を前にしては等しく中二に戻るものだ」 ・ガチンコ!露骨にいやらしいもの限定しりとり(放送コードをぶっちぎれ!) ・「いやだ。俺はそんな話はいやだ。ただちに素人ブルマ乱れ咲きの話がしたい」  「そ、それだ!ブルマー万歳!ブルマー、それは男を惑わす永遠のロマン!」  俺は道化精神にのっとり、さあ会衆よ我を見よとばかりに、いまこそ幻の珍獣ブルマニアデビルの皮を被りました。心で泣きながら。  「き、聞いてくださいよマスター!ブルマーと言えば、俺は裾を中に入れろ派なんですよ!」  「ほう。真性だな」  「当ったりまえじゃないですかあ!外に出すなんて豚に真珠−−いや、もう豚っていうか豚以下のメスブタですよ!そんな腐れブルマは屠殺場でまるまる肥えて死んでしまいますようにと星に願っちゃいますね!」  「それから色!色はやっぱり紺っすよ!」  「ほう。いよいよだな」  「だってほら、サッカーや柔道の例があるように、きっと日本人は青の似合う民族なんすよ。赤だの緑だのの亜種は、アメリア=ブルマー女史の遺志を正しく世に伝えてないとさえ思えて慨嘆の念を禁じえませんね」 ・「うるさいメスブタ。俺と口を利きたければまずブルマーを穿け」 ・「いいか、若いうちは24時間たえず女体との結合を夢見ているぐらいで丁度いいんだ」 ・「ぼくたちはなぜ寒さを感じるのでしょう」  「それは、暖かい場所にいたからです」 ・「きっと千歳さんには千歳さんの、尊敬に値する面があるんでしょうね」 ・無難に――そう、それが俺のささやかな願望。 ・「おいっ、聞いたか鷲介。喜べ、はっきり嫌いだとは言われなかったぞ。つまり、おまえの子を孕んでも構わんという意味だ」  「や、そんな、社交場最低限の婉曲表現をノンストップで拡大解釈してもらっても」 ・「たとえば、無人島に信号があったとしても彼女はそれを守るんじゃないかと思う」 ・「たわけ。彼女とて、ひとの痛みは分かるやつだと言っているんだ。なあに、おまえの一連の行為が悪意なきものだったと伝われば、すぐに態度を改め股を開くだろうよ」  「だからにいさん、アナタが軽々しくそういう三段跳びポジティブ・シンキングを口にするから、俺は日和子さんに――」 ・実のところ俺は、局所的な状況における短時間の集中力の高さにはわりと自信があるのですが、見えない到達点を目指す地道な努力となるとその持続に弱いのでした。  えーと、つまり精神的にスプリンターなんです。長距離走は苦手なんです。 ・「癖になるよ、逃げ腰」  「そうですか?」  「楽だからね、逃げ腰」  「えー、べつに楽ではないでしょう」  「でも立ちむかうよりは楽だっぺ?」 ・「さよう。ふだん虫も殺さぬような顔をしている穏やかな女に、心の底から疎まれ蔑まれ罵られる――というシチュエーションが我々の男を激しく揺さぶるのだ」  「いや、我々じゃなくてねアナタ。すいませんが、その、いかにも世界中の全男性をあまねく代弁するかのようなグローバルな言い草やめてもらえます?」  「あの店長、罵るとかそーゆーんだったら、えりちゃんの方が適役じゃないですか?」  「馬鹿な。彼女は虫も殺さぬどころか、むしろヘラクレスオオカブトさえ二足歩行で逃げだすタイプじゃないか」  「じゃー、ひよちゃん?」  「な、なんで俺に聞くんすか……」  「はっ!そういえば鷲介、貴様はいつも玉泉君に心の底から疎まれ蔑まれ罵られ、さらには魚の腐ったような眼で睨みまわされていたな!」  「いや、あの、全否定はしませんけど、そこまでひどくはないと思います」  「む、まだまだ満たされてはいないと言うのか。ふん、とんだドM野郎だな貴様、ヘラクレスオオカブトも二足歩行で逃げだすわ」 ・「おい聞いたか鷲介、たいへんだ、あの望月君が大トロとな。可愛い顔して侮れんぞ、じきにアワビがサーモンでイクラもカズノコ、シャコにブリだ」 (奈落の底) ・「世の面白いやつらにも二種類あるって知ってるかい?」  「パターンA。生まれつき頭の回転が速くて話術も巧み、語り手としての魅力にも秀でたいわゆる天才。けれどそんな都合よく神に愛された存在は、全体の一厘にも満たないクソッタレだって、コンドル思うわけね」  「もうね、残りのパターンBはそれ以外の凡才なわけですよ。運や努力やその他もろもろで騙し騙し必死に生きのびている、愛すべき同志たちなわけですよ」 (成田隼人編 前編) ・「♪うかつに惚れたら焼死体!だけどそうしたい!だからホーミタイ」 ・「んー、アレじゃん。要は、ここにいたいんじゃねーの、あいつ」  「ハ?なにが?いるじゃん。え、いるじゃん。いればいいじゃん、フツーに」  「だから、フツーにいんのが難しンじゃん。子供だってクラスの会話に置いてかれんのヤで、べつに見たくもねー番組ムリクリ見たりすんだろ」  俺はまず千歳鷲介のへらへら顔を念頭に置き、それを嘲るように言った。  「そういうさ、いんだよ、たまに。そこに馴染みたくて頑張っちゃう臆病なンが」 ・「よせよ。系って言葉は好きじゃない」 ・「おう、冗談じゃねえよ。初対面ってのは真剣勝負なんだよ。舐める側ンなるか、舐められる側ンなるか、いっちゃん最初の目ぇ合った瞬間に全部決まンだよ」 ・「あっ、すま、すまぃせん」 ・「えー、なんですか、その『文』って。この辺りに学校なんてありましたっけ?」  「あァ、あんじゃん三丁目に。私立ぬるぬる女学院」  「おまえ言っとくけど、いくら名前が学校っぽくてもイメクラの地図記号は『文』じゃないからな」 ・なんなんだ。なんなんだよ、どいつもこいつも。フツーにしてくれ、フツーに無関心でいてくれ、フツーにスルーしてくれ。それが現代社会のマナーってもんだろう。 (伊丹伽楼羅編) ・「あーあ、憧れるなあそっち側。何もかんもが、ぜーんぶ自分の中で閉じられた世界。すっげえなあ、リアルに悟りの境地だもんね。俺もさっさと全部閉じきって、俺ン中のグレタガルドに行っちゃいたいよ」 ・錯覚……いや、現実だろうか。どちらでも大した違いはないのだが(なぜなら現実と錯覚とは、気持ちひとつで瞬時にすり換わったりする程度の曖昧な区分でしかないからです)。  (たとえばグレタガルドには、主に若者たちを中心に蔓延する恐ろしい伝染病があります。これはその回避の困難さゆえ、実のところ古代の神々が遺していった抗えぬ定めの呪いだとも云われています)  (その難病は、対象にある種の快楽物質を分泌させ中枢神経系を刺激することで、不可解な精神高揚や多幸感をもたらし、特定の相手――異性である場合が多い――に関する様々な幻覚を体感せしめます)  (たとえばつまらない男を素敵な男に、くだらない女を最高の女に、弱さや迷いを優しさに、図太さや厚かましさを頼もしさに、性欲を情熱に、あばたを笑窪に、短小包茎をうふふ可愛らしくて好きよに錯覚させます)  (なお、この精神疾患は、一般的に恋または気の迷い等の名で知られています。また他者によってディスペルマジックされてしまうと鬱、倦怠感、破滅願望、懐古主義、ポエムを書きたいと思う気持ちなどが訪れます) ・「結婚を前提に性交してください」 (羽田鷹志編) ・太陽の光は、容赦なく私たちの心と体を蝕みます。勇気を出さないで。決して勝たないで。逃げるんだ、逃げるんだ、逃げるんだ。ぶるっきゃおう、ぴらむに」   ・ホークはおれなんかより、ずっといいやつだ。おれはむかしっから、ああゆう人げんになりたいって思ってたんだ。だれにでもやさしくて、だれからもきらわれない人げん。超かっけくて超むてき。 (羽田鷹志編 後編) ・「もし悲しいことを悲しいと認識にしないで生きていけるとしたら、それは幸福なことなのかな」 ・でも断られたらどうしよう。格好悪いかな。僕は上手く笑えるかな。渡来さんのことが好きだって気づかれないかな。その後ぎくしゃくしないかな。話しかけてもらえなくなっちゃうかな。 ・「消えろよ無能」 ・声をかけ、声をかけられる。ただ「声」であればいいんだ、意志や情報を伝える「話」である必要はない。だから心に浮かんだよしなしごとをただ口にするだけ。つれづれなるまゝに。僕もそうありたいと願う。 ・「この世界が金色なのかな。それとも羽田君の目に金色のフィルターが付いてるのかな」 ・「今日一日を振りかえるだけでちょっとしたホラーだよ。だって私という人間はなにもせず、なにも為さず、ただ時間を無駄に浪費していただけだもん」 ・「もし私がなにか後世に名誉を残せるとしたら、それは一分一秒でも早くこのメスで動脈を掻き切って、美しい世界から私という唯一の汚点を消しさることだと思う」 ・「誰かの非を咎めるっていうのはとても心の痛む作業だからね。私みたいな路傍の石に、そこまでエネルギーを割いてくれるひとは世界中どこにだっていないよ」  「いや、それはすごいことだよ!見てくれた人が必ずいるはずだよ!もし本当に批判があれば、誰かが口にするはずじゃない」 ・最近は秋がめっきり短くなった。そのせいで、ちょっと前までジャケットも脱いでたのに、すぐにコートを羽織る羽目になった。  ただどんなに寒くても、11月はやっぱり冬じゃないと思う。12月になると途端に白くなる空は、冬の情景の中でも僕の一番好きな部分だ。まあ、錯覚だとは思ってる。 ・「えっ毎日が文化祭?うっそ、すなわちエヴリデイ・イズ・フェスティボー?」 ・「私、本番に弱いタイプだから。逆に言うと舞台立つまでは、ことの大きさに気付けないのかも」 ・登録する際に、メモリ番号は羽田家の「01」に上書きした。消えたイエ電にはあとから適当な数字をつけておこう。 ・ひとの群れが一つ所に集まって、整理されるようにエスカレーターに吸いこまれていく姿は、リアルすぎて現実感に乏しい。 ・もし学校帰りの渡来さんと山科さんが並んでこの通りを歩いたりすれば、それはとてもいい絵になると思う。  僕は四本の指を組みあわせて四角いフレームを作った。一歩引いてふたりを収める。作品名、輝ける日常。  立ちどまっている僕に気付いて、ふたりが振りかえった。額縁を壊して早足で追いつく。名画の中に自分がいるという栄誉。 ・「うん、面白そうだけど私、ひとと一緒にゲームなんてしたことないから、みんなの空気を壊さないかなってことだけが心配かな」 ・「カメレオンの断末魔が聞こえる」 ・「この世界につまんねえモノなんかねえよ。楽しもうと思えば道端の犬のクソだって楽しめる。でも他にもっと笑えるもんが転がってるから、優先順位が低くなるだけの話」 ・やっぱり針生さんは萌えの概念が分かってないんだ。可哀想に。 ・第一に為すべきことが厳然と存在するのに、あえて第二第三の課題を見出そうとするのは一種の逃避なんだろうか。 ・去り際に「明日の放課後も時間を作れ」と言われたので、僕は「また明日」と言うことが出来た。また明日。なんていい響きだろう。 ・笑っていれば楽しいことはきっとあるんじゃないかな ・「なあ羽田、おまえはゲームの深い部分がどうとか言っていたが、ギャルゲーとエロゲーではどっちが深い。おまえはそれを知っているのか」 ・「部屋の中にいても生活音に苛まれる時があるし、家の外は尚更だし、こんな世の中じゃゲームの世界に逃げたくもなるよね」 ・「卒業してお互い忙しくなっても、半年に一度くらいは生きてるか確認できるといいね」 ・「でもそれなら、卒業はした方がいいんじゃないですか。社会人の方が何かと便利でしょう」  「そうかァ?なあ羽田、学生生活が三年間しかないのって、そっちの方が勿体ないと思わねえ?  「おまえも許されンなら、いつまでも学生を続けたいと思わねえ?なにかと便利だろ」  言われてみれば、僕は社会に出たいなんて思ったこともないし、出て何をしようかなんて考えたこともない。  山科さんが言っていた。大学に行けば、社会に出る猶予が四年ももらえる。つまりそういうことだ。 ・「でも、まァ、俺は死ぬまでに興味あることは全てやっとくけどな。ハハ、おまえみたいにいじけた子供にはなりたくないからなァ」 ・いくら僕が急いでいると言ってもひとにぶつかるのは失礼なことだから、ちゃんと避けないといけないよね。 ・「自分の中に閉じこもるのは、逃避じゃなくて探索だと」  「現実から離れても、そこからなにか持ちかえってこられるなら、決してその世界は無駄ではないってな」 ・「さあて探索行って来るか……バーベナ学園に……」 ・「そういう日もある」 ・「うん?なに、さっそく変えられそうなところあるの?いいよ、ワタライズされちゃいなよ」  「おれ……あの、実は自分のこと『おれ』って言うの好きじゃないんだ」  「ほっ?」  「なんか、しっくり来ないっていうか、自分らしく思えないっていうか……そう、だから、渡来さんの前では、これから僕でいいかな」 ・「いまの私ならこんなことも言えちゃうぞっ」  「だいちゅき」 ・「ぷじゃけるな」 ・黒タイツで覆われた芸術的な脚線の向こうに、ちらりと覗く魅惑の色彩。僕は何度それに誘惑されれば気が済むんだろう。  彼女のそこはとても高貴で気高く、メディアに氾濫する俗世の下品な布きれとはまるで違っていた。別格だ。何者も犯してはならない聖域に思える。無闇に覗いてはならない女神の深淵だ。  それはそれとして、僕は勃起した。 ・「君はちょっとパンツが見えたくらいで興奮するのか。小学生か」  「な、なんでだよ、おかしいよその論理。男はいくつになってもパンツが大好きなんだよ」 ・「フィーリングで分かってよ。もう幼い日の私にかけて誓うね、私は七兆回のきっかけがあれば、七兆回とも羽田君を好きになると」 ・「世界は金色に包まれているのだー」 ・「想像力の豊かな人間になろうと思うんだ」  「羽田君みたいにすべて前向きに想像できる人間になりたい」 (京ルート) ・何しろ経験がないんだから仕方ない。こういうときは物語に倣おう。  僕は自分の好きな恋愛ゲームで、主人公が取るべき行動を考えた。 ・メールって温かい文化だなあ。この機能を考えてくれたひとに、なにか羽田タカシ的な賞を贈りたい。 ・「私、ほんとはもっと羽田君と二人きりの時間を過ごしたくて……」  「だからもう帰るって言われたときすごく悲しくて、なんとか引きとめたくて……だけど私と一緒にいるのがつまらなかったのかなって不安になっちゃって、それでいま泣きそうになって……」  「だ、だってこれ以上羽田君にいてもらうのに、私ができることなんてないし……それにもう時間も遅いのに、こんなわがまま言ったら嫌われると思って、とても言えないよ、こんなこと……」 ・――そういうものなんだ。心の関わりも身体の関わりも、同じ原始の本能の発露の延長線だ。  そこに何を恥じることがあるんだろう。 ・ひとは次から次に浮かんでくる考えを打ちけしたいときは、無性に走りだしたくなるのかもしれない。 ・「おまえが厚生労働省か!」 ・「高内さんみたいな人種は、ひとを攻撃しなきゃ、蔑まなきゃ自分を保てない……そういうのも一種の心の病だと思うな、私は」 ・これが愛情だって言うなら、彼女をこれから抱きたいと思っている――発情してる僕は。とても短絡的で、正直な動物なんじゃないかと思う。 ・「あなたが依存って呼んでいることも、きちんと向きあっていけば恋愛になるんです。きっかけがどうであれ、いつか真実になるのならおれはその気持ちを信じたいんです」 (成田隼人編) ・「やんねーつってんだろテメ、高速道路の柱に半身埋めてそこそこ神秘的なオブジェにすんぞコノヤロウ共」 ・「ま、もっとも成田君といやあ、生まれた瞬間振りかえって母親のアソコをナメナメしたことで評判のクレイジーベイブだ。果たして本当に幸運といえるやらククク」 ・「だめです。今日できることを明日に延ばすなって、しらゆり幼稚園の永田先生が言ってました」  「あァ?てめ、永田の言うことが聞けて成田の言うことは聞けねーのか」  「すみません。三つ子の魂、百までですから」  「TPO踏まえねー魂だな。もういい、おまえ黙ってろ。行くぞ、おう」   ・「いやいやー、これはあれですよー。きっと第三者が見たら、いまのドラさんあたかも少女誘拐犯ですよー。私まだまだ発展途上ですからねー。身長150ないですよー、いい感じにロリ入ってますよー」 ・「身長があと23センチ伸びますように身長があと23センチ伸びますように身長があと23センチ伸びますように」 ・「んー、おっかしーなー、やっぱり胸キュンするなー。なんでだろー」 ・「じゃあそいつ、胸とかどんぐらいあんの」  「ふたつです」 ・黒いひとの正体は、ただの黒いカマだった。 ・トモダチだとかツレだとかナカマだとか、あるいはカノジョだとかそんなの、どうせ無条件に楽しいのは最初のうちだけだ。  だったら深入りするよりも、その「最初のうち」ってやつをだらだらと薄っぺらく引きのばしてた方がいいんだ。 ・たぶんこいつは車両の連結部を好むタイプだ。 ・「うるせえっつんだよ。んな細けぇこたいいんだよ。ガレリオかてめえは――え、ガレリオ?ガリレオ?」  「えーと、ガリレオ=ガリレイです」  「あ?んだそれ、どっちだよ。ガリレオなのかガリレイなのかハッキリしろよ」  「どっちでも大丈夫だと思いますよー」  「マジで。どっちでもいいんだ。なかなか懐の広いおっさんじゃんガリレオ」  「いえ、ガレリオは駄目ですよー」  「なんでだよ。おめ、いま、どっちでもいいっつったじゃねえかよ」  「はい、ガリレオかガリレイならいいです。でもガレリオは駄目ですよー」  「よう、あんたら。それでも地球は回ってんだよ、ほら、いつまでも漫才やってたら世が明けちまわぁ。続きは駅まで歩きながらやんなさいな」 ・「ドラさん大変ですラーメンひとつくださーい」  「あんさ、おまえさ、大変な話切りだすかラーメン注文するか、まずどっちかにしてくんない」  「ラーメンひとつくださーい」  「そっちかよ。ラーメン以下かよ大変な話。底が見えたな大変な話」 ・「遅刻した罰として手を繋ぎなさい」 ・「隼人さんってー、たぶん同棲したら彼女の歯ブラシ、迷わずピンクいの買ってくるタイプですよねー」  「うるせっつんだよ。男はブルー女はピンク、昔っからそう決まってんだろが。文句あんのかコノヤロウ」 ・ガキのころ、チャリの後ろの荷台にケツを下ろして、曲芸気分でペダルを漕いだことがあった。たぶん乗車体勢はあれに近い感じになるはず。ああ、だから背もたれが付いてるのか。 ・「はぁぁ、めんどくせー、めんどくせー。生きんの面倒だし、死ぬのは恐ええし、もカンペキ手詰まりだわ」 ・「彼女はのちに青春時代を振り返ってこう語るだろう。初めてのクチビルは、汗と泥まみれのてのひらに奪われましたin風俗ビル」 ・みんなひとりが恐いんだ。ひとに去られるのが恐いんだ。 ・「ほら、俺らみたいのって、どーでもいい他人のことはホントどーでもいいとしか思えねーんだけど、そんかし身内同志の慣れ合い意識みてーのは、ものっそい強ええじゃん。友達少ない反動か何か知んねーけど」 ・「えっと、なんだ、パート先の?友達の?娘っつったかな?よく覚えてねーけど、なんかそのねーちゃんが、結婚して出産したんだって。でその孫が、まだ生後1ヶ月とか、そんぐらいらしいんだけど」  「その赤ん坊がさ、検査したら、えーとなんだっけ……なんとかっていうひでえ難病にかかってることが分かっちゃって。マジでもう、大きくなっても一生入院生活って、ほぼ確定しちゃってんだって」  「その話聞いたときさ、俺、我ながらやべえと思うんだけど――ホント、でも一瞬、思っちゃったんだよね。え、ソレ産みなおした方がよくね?って」  「いや、そんなこと思った瞬間ぞっとしたけどさ。だって、色々真剣に考えさせられたあとの選択肢のひとつとしてならまだしもだぜ、真っ先に素でそんなん思っちゃったんだかんね」  「これもまた朝のワイドショーで、だっちーの横のメガネが言ってたんだけどー、こういうのアレ、ゲーム世代のリセット感覚って言うらしいよ」 ・「あと髪切れ髪」 ・「あれば食べる」 ・そもそも、もんまりでイッてしまったのは事故だ。ノーカンにしたい。俺の歴史から消してしまいたい。 (羽田鷹志編) ・「ねー、コンドルさん。おれ、こんどは逃げないで上手く生きられっかな」  「知ってるかい。世界なんて、おまえらみんなたちの心の中にあるチャンネルをひねれば、いくらでも変わってしまうものなんだぜ」  「新しいせかいも夢テレビとか夢ゲームみたいなトコだったらいいな」  「廻せ廻せ、チャンネル廻せ!」  「みんながやさーしくて、おれが人気もので、ヤなこと全ぜんないーくて、まいんちずっとおもっしぇートコだったらいいな」  「廻せ廻せ、どっかにあるさ!」 ・「残念ですが俺の人生はすべてがクライマックスなので、切りおとすところなんてありません」 ・心に薔薇色のコンタクトレンズを被せた新しい俺。薔薇色の世界を生きる俺。ラビアンローズ俺。 ・「いや、たまにはいいもんだよ?ね、塩でもかけて食べよう。俺けっこう好きだよ塩ごはん」 ・「なんだ渡りに船さん、その程度もあげたことないのか。ちなみに俺は、生まれて初めて発した声が『お兄ちゃん、そっちの穴はらめえ』だぞ」 ・「大丈夫、恥を恥じだと認識しないことは一つの強さだよ」 ・「ふええええんっ!おにいちゃんなんて朝ごはん抜きで食パンかじりながら曲がり角で女の子にぶつかっちゃえっ」 ・「ウソみたいな話だけど、これマジだから。ヒヨコ玉泉、aka細川玉木」 ・半ば予想できていたとはいえ、あまりの光景に形而上のふとんがふっとんだ。 ・「委員長、号令を」  「起立。着席。礼」  俺たちはスクワットを一回してから頭を下げた。 ・都会の暮らしはひとの感覚をマヒさせるらしい。昔はちょいと小粋なデパート感覚で出入りしていたファッションセンターが、今ではおっかさんテイストあふれる郷愁スポットにしか見えない。 ・「友情より家族を優先するようなやつは男子社会じゃ嘲笑の対象なの。男は誇りを重んじる生き物だからさ。ま、その辺の機微は女子供には分からないんだろうなあ、うふふ」 ・狂っちゃおう、気楽に。 ・「本当においしかったな、ひとにごはんを作ってもらえるのっていいね。うーん、食器を洗わなくていいのってしあわせだよ。やったね!」